センター通信
産業保健相談員レター 2022年8月 ~健康経営とt検定(産業医学一口メモ)~
2022.12.27
産業保健相談員 吉岡 嘉暁
1 健康経営と健康統計
「健康経営」は、企業が自らの経営理念に基づいて、職場環境や従業員の健康保持・増進に重要な経営戦略として積極的に取り組むことにより、職場の活力向上や生産性の向上、人材の確保などにつなげていく一連の新しい取り組みです。
健康統計(産業保健統計)は、業務環境も含めた社内の健康状態の把握・評価や健康経営のPDCAを回していく実践活動に必要な基礎ツールです。
2 健康統計のミッション(使命)
<健康統計は産業保健スタッフのミッション達成に必須のツールです>
(1)健康統計分析を健康経営の意思決定に役立てましょう
(2)健康経営上の問題点・課題を発見し社内で情報共有しましょう
(3)コストパフォーマンスの視える(分かる)具体的提案をしましょう
(4)社員が分かり易く取り組みやすい目標を明示しましょう(目標がはっきり分からなければ現場での共鳴も起きません)
(5)ミッションを意識した意見・提言で健康経営に参加しましょう
(6)健康経営ミッションに応える戦略の創意工夫と活動のPDCAサイクル化を目指しましょう (健康経営の深化と進化)
(7)従業員への情報提供やアドバイスにデジタル化も研究していきましょう(デジタルアプローチの開発と展開)
3 健康経営に取り組む上での上位3課題
(1)従業員の参加促進(如何にして従業員の自主的な協力を得るか)
(2)健康経営/健康管理のPDCAの構築(自社の最適な仕組みを創る)
(3)有効な健診管理(健診データの有効活用方法の開発と展開)
4 健康経営上の問題点や課題の統計データによる確認
健康経営を進める上で、まず職場・従業員の健康上の問題点や課題を把握することが重要です。明るく元気よく楽しめる職場になれば生産性にも好影響でしょう。
健康関連データを分かり易く可視化し、社内で情報共有しましょう。その為に活用が考えられるデータとして次のようなデータなどが考えられます。
(1)健康診断(一般・特殊)
(2)ストレスチェック
(3)残業時間
(4)健保組合の健康関連データ
(5)従業員満足度など社内調査データ
(6)業務環境(労働環境) その他
5 健康経営の基礎ツールとしての統計
健康統計の役割(働き)として次のようなことが有ります。
(1)企業(自社)の業務環境や従業員の健康状態の把握
(2)健康情報の客観的で分かり易い表現と社内情報共有
(3)他社の健康情報などとの比較による気づき
(4)社内職場間の比較データの有意性(有意差)の判断
(5)統計的グラフや図による視覚化・分かり易い明示
(6)健康データの時間的(経年)変化の確認
(7)社内調査による健康関連ニーズの把握
(8)健康経営戦略決定の判断資料の作成
(9)戦略実行後の効果・成果の確認 など
6 どういう場合に「対応のないt検定」を行うか
対応のないt検定(平均値の差の検定)とは、「独立している2つの群(グループ)に差があるかどうか」を検定するものです。2群の比較によって両者の違いを認識し、問題点や課題の発見に役立てるのです。2群の一方は自社(あるいは自部署)のデータであり、もう一方はそれと比較するデータです。
社内データと比較する別のデータとしては、
(1)公的データ
(2)業界内の平均データ
(3)他社データ
(4)社内他部署のデータ など
7 どういう場合に「対応のあるt検定」を行うか
対応のあるt検定(平均値の差の検定)とは、「同一の群(グループ)に対する対策の実施(介入)前後のデータ間に有意差があるかどうか」を検定するものです。
これによって、実施した対策(介入)に効果があったかどうかを確認します。
効果判定から対策の修正・改善へとPDCAサイクルを回していくことが出来ます。
8 統計のWEB研修のお知らせ
今年の10月17(月)に「健康経営に必要な統計学の基礎知識」というテーマでWEB研修(広島産業保健総合支援センター)を計画しています。ほとんど数式を使わずに、必要な統計の全体像(概観)が見えるように努めます。
読み易い書籍や公開されている教育的な統計WEBの紹介もします。
健康経営を社内文化として深化定着させることは、産業保健スタッフのミッションでもあります。ふるってご参加ください。