センター通信
産業保健相談員レター 2022年8月 ~『職域におけるがん対策について考える』~シリーズ4:化学物質による健康障害の注意点
2022.12.27
産業保健相談員 升味 正光
現在までに、我が国の職域で使用されている化学物質は、約60,000種類に達する。さらに需要の多様化に伴い、新規に導入される化学物質は増加し、年間1,000種類以上となっている。又、取り扱う化学物質の種類や取扱方法も多品種少量生産など頻繁に変化している。
一般的に化学物質は、危険性や有害性を持つものが多く、これらにより生じる健康障害は、高濃度ばく露後短時間で発症する急性中毒から、低濃度~微量、複合暴露後長期間経過してから発症する慢性中毒など様々である。このような化学物質による職業性疾病の発生は後を絶たない。
中でも特別有機溶剤、特定化学物質等の中で、人に発がん性があると認められている有害物質は約100種類に及ぶ。これらの有害物質に関しては、その物質に応じてそれぞれ健康障害の防止のための対策等を定めた予防規則があり、労働衛生の3管理を実施して健康障害を防止する対策を講じることが必要である。さらに、人に有害な化学物質についての情報は日進月歩である。
毎年多くの化学物質が職場に新たに導入されている現状の中で、最も重要なことは、現在法令で規制されている化学物質への対応はもとより、事業者自らが事業場の化学物質取扱い作業について、化学物質等安全データシート(SDS)等による必要な情報を収集し、また、作業環境、作業実態を把握した上で、定期的にリスクアセスメントを実施し、当該結果に基づき必要なばく露防止対策を講じることが大切である。
更に、現有の有害な化学物質等をより有害性が少ない化学物質等に代替することも労働者の健康障害を防止する上で重要なポイントの一つであり、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第2号、平成18年3月30日付け公示)等をご参照ください(安全衛生部化学物質対策課)。
このような有害物は、化学構造、物理・化学的性質がよく分かっており、有害性・危険性のリスクが高く、人への有害性も明らかに認められている。それ以外の物質に関しては、人への影響が分かっていないものもあり、全く安全であるとは言えない。又、体内に有害物が侵入した後に急性中毒以外の慢性中毒やがんなどの遅発性中毒の起こり方等についてもよく理解し、有害業務によって生じるこれらの健康障害の発生メカニズムについても作業者にしっかりと啓発することが重要である。