独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
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センター通信

産業保健相談員レター 2023年3月 ~視点~

2023.03.01

 

産業保健相談員(産業医学担当) 水津 純江 

 生きていればいろんなことが起こる。振り返れば笑い話でも、渦中では「この世の終わりか」と感じることもある。

 私もそう。では、どうやって切り抜けたのか。

 もちろん周囲の協力や手助けもあった。しかし、自分を理解し手を差し延べてくれる誰かがいつもいたわけではない。それでも何とかやってきた。私はどう試練を乗り越えてきたのだろうか。
 自問した際に感じたのは、自分の姿勢の大切さだ。苦しみの中で「起きたことは変えられないが、自分が今できることは何か?」と考えるようにしてきた。その「視点」がないと、自ら抜け出すために動き出すことは難しい。他責するのではなく、逃避するのではなく、身の上に起こっていることすべてを自分のこととして、まず捉える。そうした視点のもと、自分ができることが必ずあるはず、と自分を信じて動き出すのだ。大仰なことを言い募るようだが、そうではない。この視点は日々小さいことから生かせるはずだ。「普段使い」していないと結局きちんと身につかず、「よそ行き」に終わってしまう、とさえ思う。
 
  先日、大雪で公共交通が動かなくなった。そして、いつ来るとも知れないバスを長蛇の列で待った方のぼやきを聞いた。寒い中、何時間も待ったうえ、コロナ禍なのにすし詰めの車内で過ごす。
そんなストレスフルな状況で、さぞイライラしたことだろう。その方からは十分伝わってきた。
 ただ、よく聞けば、歩けば30分程度の距離。2キロほどだ。天候不順による不測の事態は変えようがないが、自分の行動を変えることはできる。歩くのを選ぶことで、未来を変えることができる。考えた結果バスに乗ったとしても、自分で選択した、という納得感がある。であれば、得も言われぬイライラに支配されることはないだろう。ルーティンであるバス乗車を当たり前とせず、これが最善かを自問する。思考停止とは真逆の、折々の自分ならではの「視点」で考えることこそ大事なのだろう。
 
  職場で考えてみよう。そこで起こる問題の多くは人間関係に紐づく。苦しいときに「誰かがどうかしてくれたら」と、じっと動かず願っていても、現実は変わらない。確かに相談も大きな一歩だ。
しかし、「自分が変わればこの状況を変えることができる」という視点がないと、窮状を訴える相談に終始してしまう。他責、そして自責の渦から抜け出せないだろう。
 自分で自分の人生のかじ取りをする覚悟こそが大切なのだろう。そこで日々の感謝が生まれ、生きていること、働けることの素晴らしさにたどり着くのではないか。
とは言いながらも、私も日々、小さなことにこだわりイライラしてしまう。ただ、そんな今の自分を突き放すことなく愛おしみ、自分を変えていくことを楽しみながら、その先に見える新たな景色をみてみたい。
 
少し成長した自分として。