独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
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センター通信

産業保健相談員レター 2023年7月 ~行動の目的に気づくとみえてくる私の気持ち~

2023.07.03

     産業保健相談員(カウンセリング担当) 中尾 陽子

 みなさんは、何かがうまくいかない時や、なかなか一歩が踏み出せない時など、どのように考えますか?「私は~が苦手だから」「昔~ということがあったから(トラウマ)」とうまくいかない原因を探してしまうことはないでしょうか。もちろん、原因を追究して、反省点をみつけ、改善していく、という流れであれば理想的ですが、原因を探して「だから難しい」と結論づけたままになっていることはありませんか?それはもしかしたら、とてももったいないことをしているかもしれません。
 
 ちょっと見方を変えてみましょう。例えば、「昔いじめられた経験があるので(原因)、人と仲良く出来ない(結果)」という考え方です。これは『原因論』と言われるものです。これに対し、「人と仲良くなりたくないので(目的)、いじめられた経験を持ち出している(選択)」と考えるのが『目的論』と言われるものです。これは、アドラーという心理学者の提唱した思想の一つです。アドラーは“人間は目的を果たすために生きていて、自分自身でその道を選択している”と考えます。つまり、現在自分の置かれている状況は、仕方なくそうなっているのではなく、原因はあくまで、きっかけや影響を与える要因に過ぎず、実は、自分なりの目的をもって、そのような言動を選択しているということです。このような考え方は、なかなか打開できない状況を見つめなおすのに、良いヒントとなるかもしれません。今の状況に身を置いていることの目的は何でしょうか?それが見えてくると、本当はどうしたいのか、どうなりたいのか、新たな目的を見つけることができるかもしれません。
 
 そしてこれは、人の言動を理解することにも役立ちます。例えば、自分が言ったことで、相手が不機嫌になったとします。この時、「私が気に入らないことを言ってしまったので、相手が不機嫌になってしまった」と考えることが多いのではないでしょうか。確かにきっかけはそうかもしれませんが、「不機嫌になった」感情には目的があるのです。それは、あなたに自分の言い分を認めてもらうためかもしれませんし、自分の方が正しいことを証明するためかもしれません。このように考えると、相手の感情にむやみに振り回されることなく、対応することが出来そうです。
 原因を探すのではなく、言動の目的を知ろうとすることで、自分の行動を積極的に選択していくことができるようになるといいですね。