独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
総合支援センター


センター通信

産業保健相談員レター 2023年8月 ~職場の中の発達障害について~

2023.08.01

産業保健相談員(発達障害担当) 西村 浩二

 近年、企業等の現場において職場不適応のある社員の背景に、発達障害があるのではないかと考える人事や管理職の方から話を伺う機会が増えてきました。私はこれまで、広島県や静岡県で発達障害の支援機関で働いてきておりますが、相談者の年齢層を見てみると19歳以上の成人期の方が6割から7割を占め、職場での悩みを起因とした相談も多く寄せられています。また、2019年に実施された人事・人材育成担当者へのアンケート調査(※)では、発達障害の意識調査において、(1)発達障害という言葉をすべての人事担当者が認識、(2)9割以上が発達障害の方と直接かかわった経験が
ある、との回答が得られていました。
 
 よくある職場の相談内容としては、会社が期待することと本人の認識にズレが生じることで解決のための合意が得られないことが挙げられます。本人にとって抽象的な指示内容や見通しが持てないことから、結果、本人なりの解釈によって業務が遂行されてしまいます。そのことが会社の求めていることとは大きく異なることが繰り返されることによって、双方にストレスや不満が募る状況になってしまいます。対応する人によっては、本人に発達障害の自覚をさせたいという感情に駆られてしまう場合も少なくありません。しかし、職場の上司等は専門家ではないため、本人に気づきのないまま「疾病性」の観点で判断して、安易に専門機関への受診を促してしまうと、後々、深刻なトラブルに発展することも考えられます。
 
 職場職場職場内における対応の原則は、「事例性」という実際の業務で生じた課題を具体的に挙げて、改善への提案や期待することを伝えていくことになります。そのためには、(1)業務遂行における基準が明確であること、(2)業務の進捗状況を確認できる仕組みがあること、(3)役割や業務内容を可視化した上で、本人の理解を助けること、(4)課題を感じていれば、定期的な面談の機会を持ち一緒に対策を考えられるようにすること、等が挙げられます。
 
 本人自身が現状に対して、精神的な不調や何らかの疾患との関連に気づきを持つことができて発達障害との向き合い方を考える第一歩になるのではないでしょうか。
 「発達障害は10人に1人の健康問題である」と日本学術会議で提言されましたが、より身近なメンタルヘルスの問題として考えていく時代になったということです。職場の管理職がある程度の知識と持ち、外部の専門機関とつながりながら、従業員の健康を多様な側面からサポートしていただくことを期待します。
  出典:カレイドソリューションズ株式会社調査(2019)