独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
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センター通信

産業保健相談員レター 2024年9月 ~「メンタルヘルス不調からの復調」 ~

2024.09.05

 鎗田労働衛生コンサルタント事務所  鎗田 圭一郎

1  はじめに
 メンタルヘルス不調による休業については、休業日数が長いこと、復職後に長期間本来のパフォーマンスが発揮できない事例や復職後も数日の休みを反復する事例が少なくないこと、また再休業が多いことなどが他の疾患に比較して課題となる点であり、このためリワーク施設を利用するケースも増えて来ている。ただ、リワーク施設を活用することで復職率が上がっても依然として上記課題のクリアは困難である。したがって、この課題の克服のためには、主治医と産業医の連携を含め産業医による復職判断が重要となることは確かである。

2  復職統計
 私は、2004年に名古屋および2015年に福島で開催された日本産業衛生学会でメンタルヘルス不調からの復職事例についての発表をさせていただいた。 2004年の発表では復職事例の約6割が再休業に至ること、初回休業日数が長いほど再休業回数も増えることを、2015年の発表では再休業回数が3回以上の事例では休業と再休業の間隔が1年未満となる事例が多いこと、そして再休業回数が3回以上の事例には双極性障害が疑われる事例が少なくないことを主に述べさせていただいた。

3  復職業務の実際
 メンタルヘルス不調からの復職については、復職意欲、疾病の寛解度、生活リズムの安定度に加え、集中力・注意力の回復が重要であると思われる。このため私は生活記録表の活用とともにブルドン抹消検査を復職時に実施している。私がブルドン抹消検査を知ったのは、2014年に産業医科大学で開催された日本産業衛生学会産業精神研究会での、別府不知火病院・徳永雄一郎先生の特別講演「問題視される精神科医が判断する復職の診断書」を聴講してのことであった。ブルドン抹消検査は計算力や知識を必要としない単純な検査であるが、検査に臨む姿をしっかり観察することで多くの情報が得られる検査でもある。私はこの検査を主にメンタルヘルス不調からの復職時に使用しているが、最近では高次脳機能障害の方や認知症などの方にも実施し、注意力・集中力の度合いを自覚していただくことに役立てている。もちろんこの検査が一般的な合格ラインに達していれば復職後のパフォーマンスの低下や再休業がないことを補償するものではないが、メンタルヘルス不調のベースにその存在が疑われる発達障害の傾向なども垣間見ることができる検査でもある。

4  おわりに
 メンタルヘルス不調からの復職については多くの課題があり、依然としてその克服は容易ではない。ただ、この問題こそ「治療と仕事の両立支援」の観点から考えるべき問題だと私は思う。