独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
総合支援センター


センター通信

産業保健相談員レター 2024年11月 ~「二つの時間」~

2024.11.07

 産業保健相談員(社会学担当)磯田朋子
 家族社会学では、ライフサイクル論について学ぶ。 多くの人が似た年齢で結婚し、出産する。生まれた子どもは、どの子も同じく毎年一つ年をとり、6年経てば小学生になる。そして、成人して独立し、夫婦は老年期に向かう。多くが同じサイクルを辿ることに着目して、発達段階と各段階の課題が分析された。 一方、恐慌や戦争のなどの歴史的なイベントがそのライフサイクル影響を与えること、それが、その人の何歳の時の出来事なのかによって異なることに注目して、ライフコース論が誕生した。 明治生まれの私の祖母の世代は、多くが、早く結婚し、40過ぎまで約10人の子どもを産み続けた。私の世代は、女はクリスマスケーキ─24日(歳)にはよく売れるが、25日(歳)以降は売れ残り─と適齢期での結婚を促された。多くが結婚し二人の子どもを持ち、両親と二人の子どもという標準家庭が生まれる。その後、ライフサイクルは大きく変化し、平均初婚年齢は上昇し、今や女性は29.7歳、男性は31.1歳(2020年)。世代により、初婚年齢も、子供の数(結果としての子離れの年齢)も、生涯未婚率も大きく異なる。専業主婦が子育てに専念した時代は遠く、今日の働く母親の子育てには、父親の参加が必須となるのはもちろん、彼と彼女の職場にもライフコースの変化に合わせた対応が求められる。 ライフサイクル論とライフコース論には、二つの異なる時間概念が存在する。ライフサイク論は、生まれてから、結婚してから何年かという「時間」の長さに注目し、ライフコース論は、それがいつの出来事なのかというタイミング、即ち「時刻」に注目する。 留学生に、子どもの頃からピアノを学んだが、爪が伸ばせないと言う理由で辞めてしまったと言う学生がいた。「私ならネールアートしている指よりピアノが弾ける指が欲しいけどなぁ」と言ったら、「それは先生がおばさんだからよ」と返された。私は20歳の頃に戻っても、やはり、キラキラのネールの指を選ぶことはないと思うが、ここにも、その時20歳の彼女と当時40歳すぎのおばさんであった私の年代=時間の違いに加え、1970年代生まれと1950年代生まれの世代=時刻の違いが介在する。 いつの世も、年寄りは「今時の若いモンは・・・ 」と、嘆いてきた。若者もまた、年長者の言うことが理解できず、上司に自分の行為のどこを叱られるのかわからない。私たちは、「世代」と言うタイミングの問題を無視して、「私たちが新人の頃にはねぇ・・・」と説教してしまっていないか。しかし、彼らは私たちより若く未熟なだけでなく、育った時代が異なり、センスも選択も発想も異なる。一方若者も、親世代に当たる上司の考えを「古い!」と一刀両断に切り捨てるのではなく、その時代背景に少し思いを馳せてみてはどうだろう。対話も可能になり、そこにはお互いに学ぶものもあるのではないか。 職場における世代と年代の異なる職員間の理解とスムースなコミュニケーションは、人間関係を理由とする職場不適応の解消に寄与するだけでなく、働き方改革やイノベーションの種を有してもいる。 違いを認めることは、共通の価値を求めていくことを諦めることではない。